遠心分離機は別れを惜しむ

午前4時。Kさんは胸の辺りにずしりとした重みを感じ目を覚ました。それは、長年愛用してきた遠心分離機を売ろうと決めた日のことだった。

 

金属加工の職人であるKさんは、学生の頃からその道を志していた。

遠心分離機は金属と不純物を分ける機械で、金属加工には欠かせないものである。件の分離機は、Kさんが初めてアルバイトをして貯めたお金で買った思い出の品であった。

それほど高価なものではなかったが、高校生だった当時の彼にとっては随分と思い切った買い物で、それはそれは大事に使った。金属加工の職に就き職場でもっと性能の良い分離機を扱うようになっても、彼はそれを手放さなかった。それほどまでに思い入れのある機械だったのだ。

だが、やがてKさんは結婚し、ほどなくして子供も生まれた。手狭になってしまった家。ついに長い年月を共に過ごした分離機を手放そうと決意した。

とはいえ捨てるのではない。必要としてくれる人に譲ることにした。

今までありがとう、そんな気持ちを込めて梱包をした。すぐにでも郵送しようと考えていたそうだが、分離機の入った段ボールを眺めていると急に寂しさが込み上げて来た。

――今日は最後の夜だ

いざ手放すとなると懐かしさと寂しさで込み上げてくる。Kさんはその夜、布団の横に段ボールを置いて眠ることにした。

 

そして数時間後の午前四時、Kさんは目を覚ましたのだ。

 

胸に感じた重さは少しすると消えた。起き上がって周囲を確認したが、胸に何かが乗っていた様子はない。

すると、隣で寝ていた奥さんも目を覚ました。

「……あれ? 作業してたんじゃないの?」

Kさんが胸に重苦しさを感じたその時、奥さんはゴンゴンという大きな物音を聞いていた。

それはちょうど、遠心分離機を動かしている時の音に聞こえたのだと言う。

「分離機、ここにいたいのかもね」

Kさんが起きた理由を知った奥さんは、静かにそう呟いたそうだ。

今も分離機はKさんの家にある。