養豚場の経営者

 今から三十年以上前、中国南部のとある村に大きな養豚場があった。

 華やかな暮らしを送る経営者一家だったが村の人間は彼らのことを快く思っていなかった。

 それは単に金持ちへの僻みではなく、劣悪な養豚環境への非難からであった。

 彼らの仕事といえば一日数回水と餌を与えるだけ。ろくに掃除もなされない豚小屋は荒み切っており、そこにぎゅうぎゅうに詰め込まれた豚の体には柵にあたってできたのであろう真っ赤な傷跡が何本も走っていた。また、加工のための屠殺を待たずに死んでしまう豚も多かったらしく、小屋の外に積み重なった死骸の山からは絶えず悪臭が漂っていた。普通であれば豚の鳴き声が聞こえるものだが、彼らの豚小屋は不気味に静まり返っていたのだという。当の経営者は「どのみち殺されるんだから」と意にも介していなかったそうだが。

 ある日、一家の父親が山で亡くなった。標高はさほど高くなく、また崖などの危険な箇所もない山で滑落したのだという。滑落したという割には外傷はなく、彼の死については他にも不審な点がいくつかあったようだが遺体はその日のうちに埋葬された。

 ところが、それから数日後。豚に餌をやりに小屋へ行った娘が血相を変えて戻って来た。

「お父さんがいる!」

 薄暗い豚小屋の中を亡くなったはずの父親がふらふらと歩いていたというのだ。闇にぼんやりと浮かんだ彼は、自身が弔われた時に着せられていた白い死に装束を纏っていたそうだ。

 娘が亡くなったのは、その翌日のことだった。

 死因は窒息死。水の入っていない浴槽で亡くなっていた。父親同様、こちらも不審な死であるがろくに調べられずに事故と処理されてしまった。

  経営者一家に纏わるこの不思議で不気味な話を教えてくれたのは、当時一家の近隣に住んでいて娘と親しくしていたという女性である。彼女は、

「娘さんは父親の幽霊を見たから死んだんですよ」と言う。

 彼女だけではなく、近隣住民全員がそのように考えていたのだそうだ。近しい人物の幽霊はしばしば不幸の前兆であるから、と。

 父親の幽霊を見たことが娘の死を引き起こしたのではなく、両者の死は別の何かに起因していると思うのだが、どうだろうか。