銀行員の失敗

まぁ、霊体験ではあるんですけど、自分の中では「あーやっちゃったな」っていう、反省の気持ちの方が大きくて――

 

知人の雅人さんという銀行員に聞いた話である。

 

去年、彼の勤める銀行に一人の中年男性がやって来た。仮に木下さんとする。「母の口座からお金を引き出したい」と言って窓口に立った木下さんだが、通帳も印鑑も持っていなかった。

たとえその二つを持っていたとしても、本人ではないため木下さんのお母さんへの確認が取れなければ引き出すことができないと伝えた。

その場では納得したように見えた木下さんだったのだが、それから約1ヵ月後、別の支店で「この前行ったところで委任状があれば金を下ろせると聞いた」と雑な手書きの委任状を窓口に叩きつけた。

もちろんそのような話はしていない。

しかし今回は通帳も印鑑も持っている。窓口で対応した行員は「お母さん本人に電話で確認させて欲しい」と言った。本人の了承がもらえれば引き出すことは可能だ、と。

ところが木下さんはあれやこれやと理由をつけて電話を断った。それでもお金は引き出したいと言って譲らない。

それならば、と日を改めて支店長と雅人さんの二人で木下さんの家へ行き直接お母さんと話すことにした。

 

当日、雅人さんの運転で木下さん宅へ向かう。

敷地内には駐車スペースがなかったため家の前に停めることにした。塀に擦らないよう慎重に車を寄せる。すると、バックミラーに人が映り込んだ。品のよさそうな高齢の婦人だった。雅人さんが鏡越しに会釈をすると、彼女も頭を下げて応えてくれた。

「木下さんのお母さんでした」

 

その日雅人さん達を待っていたのは木下さんとお母さん――の遺影。遺影の人物はたった今、鏡越しに挨拶を交わした婦人だった。

”お前らがもたもたしとるからオカン亡くなってもうたやないか! 金どうすんねん、もう引き出せんやろが!”

遺影を前にそう怒鳴られたそうだ。

おそらく、お母さんは木下さんが初めて銀行に来た時にはすでに亡くなっていたはずだ。見え透いた嘘ではあるのだが、そのように責められた以上雅人さん達が下手に出る他ない。

そこで木下さんの顔色を窺いつつ遺産相続の手続きを案内したところ、途端に機嫌がよくなり、最終的には遺産のおよそ3分の1を定期預金に回してくれるという約束までしてくれたという。

 

それならどうして雅人さんは反省しているのか。

「僕は知らなかったんですけどね、お母さんがまだ元気だった頃に銀行に来て、息子にだけはお金をあげたくないって言ってたそうで……でもそれを聞いたのが遺産相続の手続きをした後だったんです。あの時車の中から見たお母さん、あれきっと『私の遺産は絶対に渡さないでください、お願いしますね』って言ってたんですよ」

これまでで一番やるせないミスだったと、雅人さんは肩を落とした。

 

 

他には、親の遺産を半分ずつ相続する約束だった兄妹の兄の方が全部持って国外逃亡した等という話もあるそうで、お金はほどほどに持つのが良いんだと雅人さんは言っていました。

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