嫌煙 二篇

今から二十年程前、まだ小学生だったYさんはお父さんと夜道を歩いていた。

ふと、空を見上げたYさんは驚いた。

空が濃い墨で塗りつぶされたように真っ黒だったのだ。月も、星も、何も見えない。

空だけではなく、ほんの数メートル先も闇に飲まれている。

怖くなったYさんはお父さんにしがみついた。

「大丈夫だよ」

お父さんはYさんの頭をひと撫ですると、ゆっくりとした動作でタバコに火をつけた。

大きく吸い込み、ふぅっと白い煙を吐き出す。

すると、たちまち闇が晴れ、いつの間にか空にも星々が戻っていた。

 

中国河北省での話である。

 


 

知り合いのFさんからこんな話を聞いた。

今から五十年以上前、九州北部でFさんのお祖母さんが体験した話である。

 

その日、Fさんのお祖母さんは山に登っていた。

普段なら1時間もすれば下山できるはずなのだが、その日はなぜか3時間経っても4時間経っても山から出られない。

同じ場所をぐるぐると回っているだけのようだ。

――これはいけない。

 

そう思ったお祖母さんは木の元に座り、落ち着くために一服することにした。

火をつけ、煙を吐き出す。

その後再び歩き始めたところ、今度は30分もせずに山から出ることができた。

「『山で化かされたらタバコ吸うんよ』っておばあちゃん言ってたんですよ。昔はそういうこと、たくさんあったみたいですね」

件の山はかつて、狐が多く棲み付いていたそうだ。

 

 

1980年代に東海地方で似たような現象があったとのこと(「白い霧」)。

1 thought on “嫌煙 二篇

  1. 夜に煙草を吸うなら左手で。
    と、教えられましたねー。
    魔除けの意味を持つそうです。

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