挿げ替え

Nさんの大学には全部で6基のエレベーターがある。ごく普通の、奥が鏡張りになっているタイプのものだ。

そのうちの1基だけ、何故か鏡がフェルトで覆われている。Nさんはそれを常々不思議に思っていた。

「どうしてそこだけわざわざ見えないようにしてるのかなぁって」

だからある日、件のエレベーターに乗ったNさんはフェルトを捲ってみることにした。

セロハンテープで留めてあるだけのフェルトは簡単に剥がれた。下からゆっくりと持ち上げる。しゃがみこんだ自分の足元が鏡に映る。

膝、胸、首元――

そして顎、下唇辺りまで来た時「あれ?」と思った。

何か違う、ぼんやりとだが違和感を覚えた。

 

一気にフェルトを持ち上げる。

 

鏡の中にいたのは、初老の女性。

それはNさんのゼミの教授だった。

どういうわけか鏡の中のNさんは顔だけが教授になっていた。

 

その教授とNさんの間に何かあったわけではないし、今も教授はご健在だそうだ。

大阪のとある大学での話である。

 

新耳袋(第7夜)
木原浩勝/中山市朗 角川書店 2005年06月
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