真夜中の鳥居

「僕が二十代の頃の話や――」

 

現在和歌山県で飲食店を経営するDさんは、二十代の頃は普通の会社員だった。

その日、Dさんは大阪方面で仕事をしていて、日付が変わる頃に車で和歌山へと帰っていた。目的地は串本、本州最南端の場所である。

仕事でもプライベートでも何度も通った道だ。間違えるはずはないのだが、その日はどうしてだろうか、知らない間に見たことのない道を走っていた。引き返そうかとも思ったが、ずいぶん前に通り過ぎた青い案内標識に”御坊”と書かかれていたのを思い出し「このまま走っていればどこか知った道に合流するだろう」とタカをくくった。

ところが、別の道に合流するどころか道はどんどん狭くなる。どうやら山道を走っているようだ。道の両側には鬱蒼と茂る雑木林。外灯のない暗い道、ライトをハイビームにしながら進む。
すると今度は霧が出て来た。ほんの一メートル先でライトが霧に吸い込まれている。車一台がやっと通れる道だ、もし今対向車が来たら間違いなく大事故になるだろう。ちょっと車を停めて外に出てみよう。ここがどこかも分かるかもしれない。

ゆっくりブレーキを踏んで減速する。車に纏わりつく霧を溶かして停車した。
外に出て、できるだけ音を立てないように両手でそっとドアを閉める。車のライトが届く範囲まで歩いてみたが場所が分かるようなものは何もなかった。霧のせいか、空気が湿っている。重く濁ったような不気味な雰囲気に思わず身震いした。

 

ふと見上げると、鳥居があるのに気が付いた。

那智大社にも大きな鳥居があるが、それをはるかに超える大きさだ。軽く三倍はあるだろうか。霧の中でも、くすんだ赤が頭上の十数メートル先まで続いているのが見えた。

鳥居があるということはここは参道なのだろうか。

車に戻り、おそるおそる前に進む。鳥居をくぐる時は思わず息を止めてしまう程に、何故だか緊張していた。
参道であればどこかに社がありそうなものだが、注意深く辺りを見回してみてもそれらしい建物はどこにもない。あれだけ大きな鳥居なのだから、さぞかし立派な神社なのだろう。そんなことを考えながら車を走らせていると、急に開けた道に出た。オレンジ色の中央線が引かれた見慣れた道路だ。

「ほいだら、もう串本やってん。家の近所に着いてたんやわ」

ずいぶん長い間山の中を走っていた感覚だったが、いざ家に着いて時計を確認してみると、いつも大阪から帰って来るのにかかる時間とさほど変わらなかったそうだ。

それから今に至るまで、何度も大阪と和歌山を往復しているが再びその山に入ることはないという。

 

 

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2 thoughts on “真夜中の鳥居

  1. 私の知人からも同じような話を聞いたことがあります。その知人はかなりのバイク好きで東京からバイクで和歌山のある場所に行こうとしたら、迷うはずのないところに誘われてしまい、結局半日近く彷徨いたどり着いたのが立派な鳥居の前だったそうです…。
    半べそでさらに彷徨うと旅館があり助けてもらったそうです。
    和歌山、おそるべし!

    1. おぉ!
      同じ場所なのかなぁ。
      和歌山は那智山付近でよくUFOが目撃されるそうです。不思議なところですよねぇ(*‘∀‘)

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