ロシアにて

中国に住むOさんからこんな話を聞いた。

 

中国に来て初めての長期休暇に、Oさんは同僚二人と一緒にロシアへ旅行したという。

到着したその日、ホテル横のバーで軽く食事をしつつビールを飲んでいると不意に、向かいの同僚達が黙り込んだ。

二人とも表情を強張らせて自分の後ろをじっと見ている。

 

気になったOさんが振り返ると、自分がいた。

 

バーカウンターに肘を置き、立ち飲みしているその男性。

自分と同じ服を着て、同じ髪型で、身長も同じ。

そして、顔も同じ。

 

もう一人の自分はOさん達には気が付いていないようで、グラスの中身を飲み干すと左足を少し重たげに引きずりながらゆっくりとバーを出て行った。

 

それを見た同僚の一人が、「何あれ」と呟いた。

旅行に来る前、Oさんはジョギングの最中に足を怪我していたのだ。

もう一人の自分と同じ、左足である。左足に負担がかからないように歩く姿までも全く同じだったそうだ。

 

ロシアには数日間滞在したが、再びもう一人の自分に会うことはなかった。

不思議そうにOさんは言う。

「何でよりによってアジア人の少ないロシアにいたんだろう」

 

――確実に気付いて欲しかったからじゃないですかね、

とは言えなかった。

 

 

 

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