退役軍人

数年前の夏、アメリカの友人からホームパーティーに招かれた。

「パーティーと言うほどのものじゃないから」とのことだったが、行ってみると家族の他に親戚や近所に住む人たちなど、関係も年齢も様々な招待客が30人以上はいた。

その中にサンタクロースのような風貌の、人のよさそうなおじいさんがいた。ふくよかで穏やかそうな外見からは想像できなかったが、元軍人なのだという。

食後にゲームをすることになり、私と友人と友人のお父さん、それから元軍人のおじいさんの4人で地下室へボードゲームを取りに行った。

電気をつけても薄暗い地下室でボードゲームを探す。

すると、5分も経たないうちにおじいさんが「もう上がって良いかな?」と言い出した。
見ると、彼はガタガタと震えている。

私たちの返事を聞く前に階段を上っていってしまった。

その後、おじいさんに「君たちはよくあそこに居られたね。私は寒くて寒くて仕方が無かった」と不思議そうに言われた。

季節は夏。
地下室なので外気よりいくらか温度が低いのだが、震えるほどではない。むしろ籠った空気は生暖かく、数十分も居れば汗がじわりと滲み出てくる。長年住んでいる友人も地下室を寒いと感じたことは一度もないそうだ。

そんなことを話していると、友人のお父さんが「そういえば」と、その家に引っ越してきた時のことを教えてくれた。
手伝いに来ていた親戚の男性に荷物を地下室へと運んでほしいと頼んだところ、「この家の地下室には入りたくない」と断られたのだという。
彼も元軍人だったそうだ。

退役軍人と言えば「戦地で戦友の霊を見た」、「帰還した後で突然霊が見えるようになった」といったオカルト的な噂がある。
ある科学者はそれを戦争のトラウマが原因の精神疾患だと一蹴したらしいが、果たしてそうだろうか。

友人宅の地下室には彼らにしか見えない何かがいたのではないだろうか。

 

ベトナム戦争

 本エピソードの二人の元軍人はベトナム戦争の帰還兵である。
 アメリカ軍は敗北したため、帰還兵の大部分がしばらく肩身の狭い思いをしながら生活していたそうだ。
 さらに、終戦から約二十年後に建てられた戦没者慰霊碑はその色や形から「墓石」や「黒い傷」などと呼ばれ、またデザインした人物がアジア系であったことが非難され、当時は様々な論争が起こった。

彼らの多くが戦地での体験を語りたがらないのはそういった理由もあるのだろう。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA