男嫌い(※2018年4月30日追記)

 

「聞いたらがっかりするかもしれませんが」

そう言って、Uさんは一冊の手帳を差し出した。
淡い黄色の表紙の右端に小さく熊のキャラクターが描かれている。駅ビルのバラエティーショップで購入したというそれは、どこから見ても普通の手帳だった。

「ひとつずつ説明しますね」
Uさんは最初に二月のスケジュールページを開いた。
目に飛び込んできたのは、十四日の枠いっぱいに書かれたバツ印だった。
「年明けから付き合い始めた彼氏と、ちょっといいお店でご飯を食べる計画を立ててたんです」
よく見るとバツの下の方にアルファベットが書いてある。食事をするはずだった店の名前だろう。二週間以上も前に予約して楽しみにしていたそうだが、前日の十三日にUさんの親戚に不幸がありキャンセルしなければならなかった。

「次は、これです」
三月の一番初めの木曜日と金曜日に『たかちゃん』と書いてあるのだが、その上からバツが書かれている。
「幼馴染の男の子です。この時、仕事でこっちに来るって連絡があったから久しぶりにご飯でも食べようって約束したんです」
その約束は、彼が仕事中に大けがをしたために果たされなかった。

他にも次々にページを捲ってキャンセルになった予定を説明してくれた。映画、ドライブ、旅行、花火大会、出張、ランチミーティング……多い時で月に四、五回はそういうことがあったようだ。

「何となく手帳を見返していて、キャンセルになった予定にバツ書いてみたらあることに気が付いたんです」
それは、キャンセルになったものは全て男性との約束や予定だということだ。映画やドライブは彼氏と、出張やランチミーティングはUさんの上司である男性と行う予定だったそうだ。

改めて手帳を見せてもらうと、確かに女性の名前や女子会と記されているところにはバツは書かれていなかった。約束は果たされたということだ。
しかしひとつだけ、バツ印がない男性の名前を見つけた。

「この人、男性じゃないんですか?」
「あぁ、その人は……」

Uさんの話によると、それは転職コーディネーターの名前だという。
何度かメールでやりとりした後、面談を行うことになった。それまでの経験から手帳に書き込むと予定が中止になるということは理解していたのだが、あまり気が進まなかったUさんは「キャンセルになってほしい」という気持ちで予定を書いた。

ところが当日の朝を迎えてもキャンセルの連絡がない。不思議に思いながら指定された場所に向かうと――

「女の人がいたんです」

元々約束していた男性は待ち合わせ場所に行く途中に事故に遭った。そのため、代わりに女性のコーディネーターが急遽面談を行うことになったのだそうだ。

「これがどういう仕組みで予定を潰していたのか、それが分かればもう少し面白い話になったかもしれませんが、確かめようがないんです。ほら、これ2014年の手帳だから」

Uさんはそれ以降も毎年新しい手帳を購入しているが、大事な男性との約束は書き込まないという。

 

「後ろで見ている」

上記の話を伺った時、単に手帳自体が悪いものだと考えていた。が、霊的な事象に詳しい方によるとUさんと男性との約束が悉く潰された原因は、手帳とは全く関係ない可能性があるのだそうだ。

曰く、「Uさんの後ろで見てたんだろうね」とのこと。

Uさんが男性と接触するのを良しとしない何かが、Uさんの後ろでじっと見ていたのではないか。彼女が手帳に書き込むのを。だからピンポイントに男性との予定だけを潰せたのだろう。

”彼ら”も見ているし聞いているのだ。

「横浜陰陽的放送局:お時間拝借増刊号19」参照)

2 thoughts on “男嫌い(※2018年4月30日追記)

  1. この話、偶然の一致でも済みますがそれを抜きにしても現実感があるので、大好きな話です!

    1. そういう、「ウマが合わない」持ち物ってありますよね。
      持ち主を不幸にするグッズも同じ原理だと思ってます。

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