富める亡者

大学の女子寮に住むOさんが夜中にトイレへ行った時のこと。

二十三時の消灯時間をとっくに過ぎていたため、トイレは真っ暗だった。
手探りで電気のスイッチをつけようとしたOさんは奥から何か音がするのに気が付いた。
耳をすませてよく聞いてみると、それは最近流行っているスマホゲームの音楽だった。きっと同室の人を起こさないように、わざわざトイレでゲームをしているのだろう。

――何も、暗闇ですることないのに。

呆れ半分、電気をつけたOさんは「誰かいる?」と声をかけた。するとゲームの音がふっと消えた。が、返事はない。

四つ並んだ個室はすべて扉が閉まっているものの、鍵はかかっていないようだ。

Oさんはおそるおそる、手前の個室から順番に確認することにした。

一つ目の扉をノックする。反応はない。そっと扉を押して僅かな隙間から中を見るが、やはり誰もいない。
二つ目、三つ目も同じだった。

最後の個室をノックする。返事はなく、人がいる気配もない。

開けてみると、思った通り誰もいなかった。
さっきの音は聞き間違いだったか。
ほっとしたOさんは今しがた自分で開けた個室に入り、用を足そうとした。
便器に背を向けパジャマのズボンと下着を下ろす。

座ろうとしたその瞬間、

真後ろからゲームの音が聞こえてきた。

 


中国では死者の供養として「冥幣」と呼ばれる紙幣を模った紙を燃やす習慣がある。燃やすことでそれが死者の手に渡るのだという。

元々はその冥幣だけだったが、時代の変化とともに燃やす紙もバリエーションが増えた。
例えば、スマホ。特に亡くなったのが若い人だった場合によくスマホを模った紙が燃やされるらしい。
他には車やマンションなどの紙もあるそうだ。

死んだ人は割といい暮らししてるんですね、と言うと冥幣について教えてくれた人は「形式的な物ですから、本当に死者に届くと思ってやっている人はいないでしょうね」と笑っていた。
スマホや車の紙にしたって、それを不謹慎だと考える人も少なからずいるようだ。
所詮は若い人の遊びに過ぎない、と。

しかし実際に冒頭のような怪談話もある。
生きている人にとっては不謹慎な遊びでも、死者は意外と喜んでいるのかもしれない。

 

冥幣

 人民元の紙幣には毛沢東の顔が印刷されているが、冥幣に印刷されているのは閻魔大王である。
 また発行元は「天地銀行」や「天堂銀行」――要は「あの世銀行」という意味――となっている、ちょっと粋な紙幣である。

 

 

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