今から数年前の中国での話。
ある冬の夜、残業を終えたAさんが車で帰宅する途中に奇妙な光景を目にした。
外灯もまばらな暗い夜道を大勢の人が歩いているのだ。彼らはやけに歩みが遅い。うつむき、足を引きずるようにゆっくりゆっくり歩いている。ボロボロの服から出た顔や手足は赤茶色の汚れに塗れていた。
翌日、会社でその話をしたところ、同じものを見たという人はいなかったが、不思議な噂を耳にした。
Aさんが彼らを目撃した付近にあるスーパーでは、食べ物が全て腐っていたというのだ。中には仕入れたばかりの新しい物もあったようだが、それら全てが一晩でぐちゃぐちゃに朽ちていた。黒く変色した食べ物の上には何故か煤けたような紙切れが置かれていたそうだ。
「そういえばその人達の服なんですけど、真冬なのにやけに薄着だったんですよね。もしかしたら……」とAさんは言う。
Aさんが住むその場所は、一九七六年七月に犠牲者二十万人を出す大規模な地震があった。
もしかしたら、四十年以上経った今でもなお浮かばれない死者が彷徨い続けているのかもしれない。