二段ベッドの怪

Nさんの通っていた高校は、戦時中に軍の病院があった場所に建てられていた。

入学前から兵士の幽霊やら看護師の幽霊やら、それに纏わる怪談を多く聞かされていたNさんは、高校での寮生活に少しばかり不安を感じていた。
しかしいざ入学してみると心配していた幽霊はいないし、何よりルームメイトのいる生活は想像以上に楽しかった。
中でも特に嬉しかったのは初めて目にする二段ベッド。一人っ子だったNさんは実家では当然二段ベッドとは無縁の生活を送っていた。

入学してしばらくは二段ベッドの上段に寝ていたが、そのうち天井が近いことに圧迫感を覚え、下段のルームメイトと場所を代わってもらった。

しばらく経ったある日の夜、Nさんはトイレに行きたくて目が覚めた。
トイレは部屋を出て廊下を20メートル程歩いた先にある。一人で行くのも何だか怖いので、下に居るルームメイトに声をかけた。

「起きてる? トイレについて来てくれない?」

返事はなかったが、ベッドから出る音がしたのでNさんも梯子を降りた。他のルームメイトを起こさないように、二人はそっと部屋を出た。

廊下に出たNさんはいつもと何か違う、と感じた。

普段なら消灯時間が過ぎても廊下の電気だけはついているはずなのに、今日は非常灯の赤い光しかない。
不思議に思いながら歩いていると、Nさんはある事に気がついた。

――そういえば、ベッドの場所を代わってもらったんだった。

自分が寝ているのは下の段である。本来ならば梯子すらなかったはずなのだ。

では、隣にいるこの人は誰なのか。

私たちはどこを歩いているのだろうか。

非常灯に照らされた廊下をよく見ると、いつも見慣れた場所とは全く違う事に気がついた。いつの時代の物なのだろうか、木造の廊下は今にも床が抜けそうだった。

横目でちらりと隣を見たNさんは思わず声を上げそうになった。
その人はボロボロの衣服を身に纏い、服からのぞく肌は傷なのか汚れなのか、黒く爛れているようにも見えた。

思わず足を止めると、隣を歩いていたその人がゆっくりこちらを向く気配がした。

見てはいけないと思うのに目を閉じることができない。

だんだんと顔の全体が赤い光に照らされる。
まずNさんの目に入ってきたのは、濁った色をした眼球。その下はぐちゃぐちゃに崩れているがかろうじて口だと分かる大きくあいた穴。何本か残った歯の向こうで舌がゆっくり動くのが見えた。そして、空気が抜けるような声が聞こえた。
言葉にならないその声は確かな悪意に満ちていた。

「どうしたの? 大丈夫?」

ルームメイトの声が聞こえる。
気がつくとそこは、いつもの廊下だった。部屋を出て行ったNさんがなかなか戻って来ないので心配して探しに出たところ、廊下に倒れているNさんを見つけたのだという。

ちなみに、病院があった当時は戦時中だったということだが、戦争の相手は日本なのだそうだ。

 

 

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