マンスリーマンション

大阪府某所での話。

マンスリーマンションに住んでいるKという友人がいた。
Kの住むその部屋は当時の家賃相場よりいくらか安かったが、彼女は「駅からも大学からも遠いから」という認識だった。

しばらくは何事もなく暮らしていたがKが部屋に一人でいたら肩を叩かれたり、誰かの声が聞こえたりといったことが起こるようになった。

引っ越しも考えたが特に実害はないしはっきり幽霊を見たわけでもないので、気にしないようにして過ごしていた。

それから少し経ったある日の深夜、Kがアルバイトを終えて自転車で家に帰る途中。
帰宅するためには十字路を右に曲がるのだがその日はなぜか十字路の真ん中に男性がいた。
何をするでもなく、ぼんやりと突っ立っている。

「何もないこんな所でこの時間に何をしているんだろう」
Kは内心どきどきしながら男性に近づく。
狭い道ではあったが、極力男性と距離を取って進む。

男性がだらんと下ろした左手を視界の端に捕らえつつ、震える足でペダルを踏んで何とか通り過ぎた。

それからすぐに駐輪場にたどり着き、十字路を振り返るとそこには誰もいなかった。

男性の横を通り過ぎてから数秒ほどしか経っていない。

周りに隠れるような建物はない。
Kには男性が消えたとしか思えなかった。

そして次の日、Kが昼過ぎに玄関を開けて外に出ると足元に盛り塩があるのに気がついた。

よく見ると他の部屋の前にも置いてある。

昨夜までは何もなかったはずだ。

一体誰が置いたんだろう?

何のために?

怖くなったKは今度こそ引っ越しを決意した。

その後二週間ほどで引っ越し先が決まり本格的に荷造りが始まった。
私も手伝いに行き、Kと一緒にゴミをまとめたり段ボールに荷物を詰めたりしていた。

二人向かい合わせにしゃがみ込んで作業していると目の前をふわっといい香りが通り過ぎていった。
女性用の香水のような香りだった。

思わず顔を上げると怪訝そうに眉を顰めるKと目が合った。

件のマンションは今もそこにある。

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